中球磨の酒(1)
            中球磨の酒  

堅実につくられた、バランスのとれた優等生の銘柄がひしめいています。それにとどまらず新しい味のデザインやユニークな志向性が随所にみられるので今後画期的な製品を輩出する気配があります。 



   

緑松(38度) 松本酒造場(球磨郡あさぎり町免田)

なべてネーミングの新奇さとロゴの押し出しで外面のみの競い合いになりがちな焼酎界で、伝統を貫くヒゲ文字のちから強さをまず賞揚したいと思います。「緑松」には、類をみない誠実でがっしりした内実があり、辛さ甘さがきちんと配分されています。あっという間に1升瓶をからにしてしまったのは、今や貴重となったオーソドックスさの魔力のせいです。
蔵元さんは酵母の系統分類を専門に研究された方で、膨大なコレクションから選抜された株を使った新しい銘柄(「萬緑」など)を世に出されています。その一方で古くてもよいものを受け継がれているのは、焼酎をいろいろな角度から計って仕事をされる建設的な姿勢の反映ではないでしょうか。



肥人(くまびと)(35度) 犬童酒造場(球磨郡岡原村)
[2002年4月から(株)堤酒造として再出発しました。それに伴い、「肥人」は製造が休止されています]

ほどよく辛めで枯淡さがあり、そのうえ口に含むとさざ波が立つような熱っぽさがあるのは、熟成が消極的な研磨ではなくてちから強い練成の時間であることの証明です。よけいなところに力点をおかず、芯がしっかりした円熟がぴしっと口中で反応し、存在感がはっきりしています。熟成がもっとも意味をなしている、おいしく飲める貴重な酒です。
「肥人」とは万葉集にも出てくる、熊襲族を指す古いことばです。



玉の露(38度) 犬童酒造場(球磨郡岡原村)

[2002年4月から(株)堤酒造として再出発しました。「玉の露」は引き続き製造販売されています]

レトロな陶器の瓶がしゃれています。中味ももちろん強さと柔らかさが調和した超一級品。木霊がくぐもって返ってくるようなどことなく頼りなげな不思議な甘味に、ぴしりとした腰の強さが加わったおいしさは、気長に時間と自然にまかせて熟成したことの証です。自然と伝統を尊重した焼酎の雄として、「玉の露」は特筆されます。
犬童さんは江戸時代からほとんどまわりのけしきが変わっていないようなのどかな田舎で、四季のめぐりを反映しながら熟成していく昔ながらの揺るぎないしっかりした製品を送り出されています。




五十四萬石 (44度) 高田酒造場(球磨郡あさぎり町深田)

口に含んだ瞬間、旨みと香りの一撃を受けます。減圧蒸留の原酒がいくぶんブレンドされているようで、一撃の残響が去ったあとやや平板になりかねないのですが、他の銘柄とは異なる存在感のある酒です。味わううちに何か見慣れない成分が顔を出して叫んでくれるのですが、万華鏡のように輝いては入れ替わるので、五感ではなかなか読み取れません。何度もじっくり飲んで極めていく性質の酒です。



松の泉(25度) 松の泉酒造(球磨郡あさぎり町上)

白髪岳に降った雨が山膚の深い林に受け止められ、静かに沈みこみ、何十年も何百年もかけて麓の井戸に届きます。この水で醸された焼酎が松の泉酒造の主力、「松の泉」です。白髪岳が生成する地下水を使う銘柄は数ある中で、「松の泉」は、しかし硬派に属します。飲んでみればわかるとおり腰が強く、下記の「黙壷子」に通じる強くさわやかな香味で、ヤワな銘柄を一蹴する溌剌さがあります。
画像は1800ml入り紙パックです。もちろん瓶入りもあります。